成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分となった方のために、法律面や生活面で支援する制度。
成年後見人は、法定代理人として、本人のために本人に代わって「法律行為」「財産管理」「身上監護」を行う。
具体的には、お金の管理(銀行での手続きや支払)、施設との契約、不動産の契約、年金の手続きなどを行う。
本人の支援のために関係機関と連携してサポートする。
財産管理(成年後見人) ◎預金、預貯金、不動産等の管理 ◎収入・支出の管理 ◎有価証券等の金融商品の管理 ◎税務処理(確定申告、納税など) | 法律行為 身上監護(成年後見人) ◎医療に関する契約 ◎施設への入所契約 ◎介護に関する契約 ◎生活、療養看護に関する契約 |
判断能力がすでに低下してしまっている場合に利用する制度。
どのような場合に必要となるか ◎認知症で預貯金の引出、振込ができなくなってしまった、通帳を亡くしてしまった ◎父や母が悪徳商法に騙されて、いらない商品を買ってしまう ◎ほかの親族が父母のお金を使いこんでいる可能性がある ◎寝たきりの親の面倒をみているが、他の兄弟から親の財産を使い込んでいないかどうか疑われている ◎障がいのある子どもの将来が不安だ ◎不動産の売却や遺産分割協議をする必要があるが、本人では判断できず、手続きをとることができない |
元気な人が将来の判断能力低下時に備える制度。
契約で自分が信頼できる(任意の)人に後見人を頼むことができる。
どのような場合に必要となるか ◎今は元気だが、将来認知症になったときに不安がある ◎夫婦二人暮らしだが、将来に備えて自宅の処分や老人ホーム探しを検討していきたい ◎後見人となる人を予め決めておきたい ◎老人ホームや病院での手続きや支払いなど将来、頼める親族が身近にいなく、信頼できる専門家にお願いしたい |
◎物事を判断する能力が全くない方が利用する。
(どこにいるのかわからない、家族・知人の判別が困難)
◎日用品の購入以外のほとんどの法律行為(売買契約、遺産分割、施設との契約など)
について成年後見人に対して代理権が付与される。
※成年後見では、本人の実印登録ができません。成年後見人に代理権があるため、成年後見人の実印があればよいから
◎物事を判断する能力が著しく不十分な方が利用する。
(自分の財産が把握できていない、買い物をしてもお金の管理ができない)
◎重要な法律行為(売買契約、遺産分割など)に同意権が付与される。
※本人が了承することにより、代理権を付与したり、同意権の範囲を拡張することができる
◎物事を判断する能力が不十分な方が利用する。
(訪問販売・悪徳商法でいらないものを買ってしまう)
◎本人が了承することにより、必要な行為につき、代理権や同意権が付与される。
※代理権とは、本人の代わりに契約などの法律行為を行うことができる権限
※同意権とは、本人が行った契約などの法律行為に同意をすることにより、契約が完全に有効となる権限
同意がない契約などの法律行為は、本人を保護するために取り消すことができる
法定後見制度の3種類
後見 | 保佐 | 補助 | ||
対象となる方 | 判断能力が全くない方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が不十分な方 | |
申立てができる方 | 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市区町村長など | |||
成年後見人 等の権限 |
必ず与えられる権限 |
◎財産管理についての全般的な代理権、取消権(日常生活に関する行為を除く) | ◎特定の事項(※1)についての同意権(※2)、取消権(日常生活に関する行為を除く) | ― |
申立てにより与えられる権限 |
― | ◎特定の事項(※1)以外の事項についての同意権(※2)、取消権(日常生活に関する行為を除く) ◎特定の法律行為(※3)につい ての代理権 |
◎特定の事項(※1)の一部についての同意権(※2)、取消権(日常生活に関する行為を除く) ◎特定の法律行為(※3)についての代理権 |
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制度を利用した場合の資格などの制限 | ◎医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失うなど | ◎医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失うなど | ― |
※1 民法13条1項に掲げられている借金、訴訟行為、相続の承認や放棄、新築や増改築などの事項をいいます。
ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は除かれます。
※2 本人が特定の行為を行う際に、その内容が本人に不利益でないか検討して、問題がない場合に同意(了承)する権限です。
保佐人、補助人は、この同意がない本人の行為を取り消すことができます。
※3 民法13条1項に挙げられている同意を要する行為に限定されません。
【家庭裁判所発行「成年後見制度~詳しく知ってもらうために~」から引用】
〇法定後見制度のメリット ①本人や家族の意思(配偶者・4親等内の親族又は3親等内の姻族)、市区町村長の申立てにより、一部の家族・親族の反対があっても申立てをすることができ、中立な立場の人間を成年後見人、保佐人、補助人に選任することができる。 ②判断能力が減退した方の財産管理、身上監護、各種契約代行(医療契約、施設契約等)をすることができる。 ③不利益になる契約を締結してしまうリスクがなくなる。 |
×法定後見制度のデメリット ①家庭裁判所が職権で成年後見人等を選任する。なお、家族関係が複雑な場合や本人に一定の財産がある場合には、申立ての際に立てた候補者以外の専門職を成年後見人にしたり、後見制度支援信託(※後述)を活用する運用が一般的になっている。 ②誰が成年後見人等につくかわからず、誰を成年後見人等に選任するかという家庭裁判所の判断については、不服申し立てをすることができない。 ③申し立てをすると、家庭裁判所の許可を得なければ取り下げをすることができない。そのため、希望者が成年後見人等に選任されそうにないという理由では取り下げは認められない。 ④申し立てから後見人就任(審判確定)までに2か月前後手続き期間が必要なため、迅速性に欠ける。 ⑤医師による鑑定が必要な場合があり(補助と重度の後見は省略)、申立人が負担する家庭裁判所に納める費用が高額となる可能性がある。 ⑥成年後見人、保佐人が選任されると被後見人、被保佐人は各種資格制限(役員、医師、税理士等)を受ける。 ⑦成年後見人は、本人の財産を投機的に運用することや、自らのために本人の財産(預貯金、不動産)を使用すること、親族などに贈与・貸付をする、本人名義の不動産に担保権(抵当権)を設定したりすることなどは、原則として認められない(資産凍結)。 ⑧成年後見人の仕事は、申し立てのきっかけとなった目的(売買や遺産分割など)が終わっても、本人が判断能力を回復したり、亡くなるまで続く。 ⑨成年後見人の報酬は、裁判所が決定する。 東京、横浜家裁の目安 財産額(預貯金や有価証券の合計額)に応じて1000万円以下月額2万円、 1000万円超5000万円以下月額3~4万円、5000万円超5~6万円 その他付加報酬(居住用不動産の売買、遺産分割調停等)がある。 |
◎本人に十分な判断能力があるうちに将来判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、誰に(任意後見人)、何を(代理権限)任せるかを予め公証人の作成する公正証書によって契約(任意後見契約)で定める制度。 ◎判断能力が低下したときに、任意後見受任者等が家庭裁判所に申立てをし、家庭裁判所で任意監督人が選任された段階で任意後見が開始する。 ◎本人に身近な家族がいる場合には任意後見開始申立てのタイミングを計ることができるが、いない場合や親族以外の第三者が任意後見人を受任する場合には別途「見守り契約」を締結し、定期的な訪問、連絡等によるサポートが必要。 ◎遺言、見守り契約、任意後見契約、民事信託契約の組み合わせにより、将来を見越した本人の生活や相続対策を行うことができる。 |
〇任意後見制度のメリット ①任意後見人受任者(任意後見契約で定めた人)が確実に就任できる。 ②任意後見契約の中で、どこまでの後見業務(代理権)を委任するかは自由に決めることができる。ただし、一身専属的な権利(結婚・離婚・養子縁組など)は締結することはできない。 ③任意後見人の報酬を自由に設定することができる。 ④居住用不動産でも家庭裁判所の売却許可が不要。 |
×任意後見制度のデメリット ①あくまで代理権しかないので、本人が行った契約などを取消することはできない。 ②任意後見監督人が就任し、任意後見人の後見業務は任意後見監督人に定期的にチェックされる(資産凍結)。 ③任意後見監督人の報酬は、裁判所が決定する。 東京、横浜家裁の目安 財産額(預貯金や有価証券の合計額)に応じて 5000万円以下月額1~2万円、5000万円超2万5000円~3万円 |
家庭裁判所に成年後見の申し立てをした後の手続きの流れ
※申立てから審判までの期間は事案にもよるが、2ヶ月以内で審判に至るのが全体の約8割で、制度開始当初と比べると審理期間は大幅に短縮している。
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◎申立人、本人、成年後見人(保佐人、補助人)候補者が家庭裁判所で事情を聞かれます。
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◎実際に精神鑑定がおこなわれるのは稀で、申立て全体の約1割に過ぎません。
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◎親族以外の専門職の第三者が成年後見人等に選ばれる場合が過半数となっています。
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◎裁判所から審判書謄本が送られます。受け取ってから2週間経過した後に審判が確定します。
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◎家庭裁判所が成年後見人等から定期的に財産管理状況等の報告を受け、後見事務に問題がないかを監督します。
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◎家庭裁判所調査官が本人の精神状態、生活状態、資産状況、申立理由、本人の意向、成年後見候補者の的確性を調査
◎本人の精神的な障害の程度、状況を確認し、援助の必要性を判断するために、家事審判が直接本人に面談
※ケースによっては、鑑定人の鑑定が別途必要となる
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◎申立てられた類型や最終的に誰を後見人にするかを決定する
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◎法務局に後見人であることが記録されます
被後見人の財産の一部を信託銀行等に信託して、親族後見人の管理する財産の範囲を少なくし、横領を防止するための制度です。本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要な金銭を預貯金等を後見人が管理し、通常使用しない金銭等に信託します。 信託財産を払い戻したり、信託契約を解約するには、家庭裁判所が発行する指示書が必要になります。 |
家庭裁判所発行「成年後見制度~詳しく知ってもらうために~」を元に作成
〇後見制度支援信託のメリット ①後見人が日常管理する資産が少なくなり、横領のリスクが低く、年金の受取や施設入所等のサービス利用料の支払いといった日常的な後見業務に専念できる。 ②信託財産は元本が保証され、預金保険制度(1000万円まで)の保護対象になる。 |
×後見制度支援信託のデメリット ①信託契約を締結するにあたり、家庭裁判所が専門職後見人を選任し、その専門職後見人が信託契約を締結するため、その報酬と信託銀行等に対する信託報酬等が必要となる。なお、専門職後見人は、信託契約締結後、原則として辞任して親族後見人に後見業務を引き継ぐことになる。 ②信託された財産は、本人が必要とする理由等がなければ払戻しはできない。(資産凍結) ③遺言書で特定の者に遺贈するとした預貯金が、遺言書の存在を見過ごしたまま後見制度支援信託を利用されてしまったことにより、信託銀行に預け替えされてしまい、受遺者に渡らなくなってしまう可能性がある。 |